キノコラリー 品川区 活動報告

【潜入レポート】防災訓練がRPGに?戸越二丁目「冬まつり」で見えた、地域コミュニティの未来形

2026年1月25日

1. イントロダクション:退屈な「避難訓練」をアップデートする

「防災訓練」という言葉に、私たちはある種の「静止した時間」を連想しがちです。校庭に集まり、消火器の使い方を眺め、乾パンを受け取って帰路につく。そこに漂うのは、切実な危機意識というよりも、むしろ義務感に伴うわずかな退屈さではないでしょうか。

しかし、2026年1月25日、品川区・戸越二丁目で開催された「冬まつり」は、その固定観念を鮮やかにアップデートしてみせました。そこで展開されていたのは、デジタルテクノロジーと昭和レトロな屋台文化が交差する、全く新しい「体験型防災」の姿です。街全体をRPG(ロールプレイングゲーム)のフィールドへと変貌させたこの試みは、地域の絆を「守るべきもの」から「遊び尽くすべきもの」へと再定義していました。

2. 驚きのポイント①:街全体がRPGのフィールドに「キノコラリー」の衝撃

この日、参加者たちのスマートフォンには、未知の冒険への扉が開かれていました。「防災デジタルクイズラリー(通称:キノコラリー)」です。

特筆すべきは、その圧倒的なエンゲージメントの高さです。参加者数は29名という小規模なコミュニティイベントでありながら、総活動数は316回を記録。単純計算で、一人あたり平均11回近くのアクションを起こしていることになります。単なるスタンプラリーでは成し得ないこの「熱狂」を支えたのが、緻密なRPG的設計でした。

キノコラリーの様子
街中がRPGの舞台に

参加者は「勇者キノコ」「キノコナイト」「キノコレンジャー」「ホーリーキノコ」「キノコ商人」「旅人」といったキャラクターを選び、経験値(EXP)を稼いでレベルアップを目指します。データによれば平均レベルは12.1に達し、トップ層はレベル19まで上り詰めていました。デジタルな「ピン」というQRコードの読み取り音が街のあちこちで響き、防災という記号が、能動的な「クエスト」へと昇華された瞬間でした。

3. 驚きのポイント②:異彩を放つキャラクター「ただのおじさん」率の謎

このゲーム設計において、ジャーナリスティックな視点から最も興味を惹かれたのは、キャラクター選択肢のなかに混じっていた「ただのおじさん」という存在です。ファンタジーの定石を無視したこのシュールな選択肢は、記号化されがちな「地域の守り手」という概念に、絶妙なユーモアと人間味を吹き込んでいました。

【重要データ】キャラクター分析:ただのおじさん 2名(6.9%)

ピクセルアートで描かれた、どこか所在なげな「ただのおじさん」が、勇者やナイトと肩を並べて街の平和を守るために奔走する。この光景が示唆するのは、コミュニティにおける「弱さ」や「日常」の肯定です。英雄ではない、隣に住む普通の人々こそが防災の主役であるというメッセージが、この6.9%という数値には込められているように感じてなりません。

4. 驚きのポイント③:地元商店街が「クエストの目的地」になる連帯感

キノコラリーのチェックポイントは、街の毛細血管である商店街そのものでした。「後藤蒲鉾店」「ヘアーサロンコマノ」「中村忠商店」「あんしんオフィス」「ギャラリーカメイ」、そして「戸越八幡神社」。実在する店舗がクエストの目的地(スポット)となることで、店主と住民の距離は物理的にも心理的にも縮まっていきます。

ここで注目したいのが、「ヘアーサロンコマノ」での金メダル率が100% という驚異的なデータです。これは参加者全員が、このスポットのクイズを一発でクリアしたことを意味します。この数値は、単なる知識の蓄積を超えた、店主と住民の間の「顔の見える関係性」がもたらした成果ではないでしょうか。社会学でいうところの「社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)」が、有事の際の防衛メカニズムとして機能する。その萌芽を、私たちはこの100%という数値に見たのです。

5. 驚きのポイント④:ガチすぎる防災知識と「ソースせんべい」の共存

イベントの設計は、遊びに振り切っているようでいて、その中身は驚くほど「ガチ」でした。 クイズの内容を覗けば、「地震が起きたらまず外に飛び出すのは×(まずは身の安全)」「揺れが収まった直後に確認すべきは火の元」「警戒レベル4で即避難」といった、生死を分ける実践的な知識が並びます。さらに「ブレーカーを落とす」「災害時は公衆電話が優先される」といった、インフラ知識まで網羅されていました。

一方で、会場の常松会館周辺には、味噌田楽の芳ばしい香りが漂い、射的や宝つりのブースからは子供たちの歓声が上がります。「ルーレットソースせんべい」に一喜一憂する昭和レトロな光景と、デジタルラリーに熱中する現代的な光景。この「真剣な学び」と「全力の遊び」の幸福な共存こそが、私たちが長く忘れていたお祭りの原風景であり、コミュニティの理想形と言えるでしょう。

6. 結論:私たちが本当に欲しかった「防災のカタチ」

分析レポートに目を落とすと、一つの不気味な、しかし示唆に富むデータがありました。

「魔王討伐総数:0回」

このイベントにおける「魔王」とは何だったのでしょうか。それはまだ見ぬ巨大災害そのものかもしれません。今回の冬まつりでは、魔王を倒すことこそ叶いませんでしたが、住民たちは確かな武器を手に入れました。

それは、アイテムコレクションに記された「勝利のおたけび」のような精神です。

「戦いの後に響き渡る勝利の雄叫び!その声は仲間たちを鼓舞し、敵を震え上がらせる」

テクノロジーは、地域の絆という伝統的な資産を磨き上げるための「砥石」でした。デジタルクイズという共通言語を通じて、隣人と笑い、店主と語り、街を歩く。その積み重ねこそが、災害という見えない敵を震え上がらせる最大の防御策になるのです。

防災は、もっと楽しくなれる。そして、もっと日常の地続きになれる。 もし、あなたの街の防災訓練がRPGになったら、あなたならどのキャラクターで参加しますか?「ただのおじさん」として街に立つ覚悟ができたとき、コミュニティの未来は、より明るく、より強固なものへと変わっていくはずです。

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