キノコラリー 教育 活動報告

【祝・防災こうしえんフロンティア賞】特別支援教育×冒険!「かしの木防災クエスト」が拓いた防災教育の新たな地平

2026年1月22日

1. はじめに:特別支援学校における防災教育の新たな地平

「遊びを喜びに、学びをワクワクに」――このスローガンが、教育現場に一つの革命を起こしました。任意団体「マッシュ&ルーム(通称:キノコ)」と「埼玉県立上尾かしの木特別支援学校」のコラボレーションによる「かしのき防災クエスト」が、このたび「ぼうさい甲子園」でフロンティア賞を受賞。この快挙は、単なる活動の成功を意味するだけでなく、ICTと遊びが「障害」という心理的・物理的な壁を融解させ、教育的成果へと昇華させた社会的インパクトを象徴しています。

従来の防災教育、特に特別支援教育においては、教師主導のルーチン化した避難訓練や、静的な知識伝達に留まりがちでした。しかし、本プロジェクトはICTを活用した「冒険」へと学びの形を変換。フロンティア賞という客観的な評価は、このアプローチが次世代の防災教育のスタンダードになり得ることを示しています。なぜ、この実践が現場の停滞感を打破し、生徒たちの心に火をつけたのか。そこには、大規模校ゆえに抱えていた切実な「ジレンマ」への鋭い分析がありました。

2. かしのき特別支援学校の現状と「壁」:大規模校ゆえのジレンマ

埼玉県立上尾かしの木特別支援学校は、小学部・中学部・高等部を擁する大規模校です。その規模ゆえに、現場は特有の制約に直面していました。

  • 物理的な集会の限界: 全校生徒が一堂に会する場所の確保が難しく、一斉指導による熱量の共有が困難でした。
  • 個別最適化のハードル: 多様な実態を持つ生徒一人ひとりに対し、興味関心や理解度に応じた「レベル別指導」を同時に展開することは、教師側のリソースを圧迫していました。

先生方が抱いていたのは、「避難訓練を単なる儀式に終わらせたくない」という切実な願いです。机上の学習では「自分はどう動くべきか」というイメージが湧きにくく、学びが「他人ごと」になってしまう。この意識の乖離こそが、生徒たちの行動変容を阻む最大の障壁でした。

この「物理的制約」と「意識の壁」を同時に突破するためのデジタルな解として導入されたのが、冒険学習型デジタルスタンプラリー「キノコラリー」だったのです。

3. 「キノコラリー」という解:冒険学習型デジタルスタンプラリーの仕組み

「キノコラリー」は、QRコードを起点とした「発見→挑戦→収集・記録→振り返り」のサイクルを回すWebアプリケーションです。なぜRPG形式が特別支援教育においてこれほど機能したのか。そこには、学習を能動的な探究へと変質させる緻密なメカニズムがあります。

  • 予測可能で安全な「失敗」の場: 知的障害のある生徒にとって、現実の訓練は予測不能な不安を伴うことがあります。しかし、RPG構造は「敵とのバトル」や「ミッション」という明確なルールを提供します。特筆すべきは「宿屋」の存在です。間違えても宿屋で回復して再挑戦できる仕組みは、「失敗を恐れずに済む心理的安全性」を担保し、挑戦への意欲を継続させます。
  • 定量的な達成感の可視化: ミッション成功で得られる「メダル」や経験値は、自分の歩みを客観的に証明します。この「収集」の喜びが、受動的な「訓練」を自発的な「クエスト(冒険)」へと塗り替えたのです。
  • アクセシビリティの追求: ブラウザベースで動作するため、GIGAスクール端末をそのまま活用でき、アプリインストールの手間もありません。ICTが苦手な層にも優しい設計が、学校全体でのスムーズな社会実装を可能にしました。

このシステムは、単なるデジタル教材ではありません。生徒自身が制作に深く関わることで、真の「共創」が始まります。

キノコラリーの画面イメージ
生徒が操作するキノコラリーの画面

4. 共創の魔法:生徒たちが描いた100点のイラストが息づく世界

本プロジェクトが爆発的な熱量を生んだ背景には、生徒たちが制作段階から主体的に関わった「参加型制作プロセス」があります。

アプリ内に登場するビジュアル要素は、生徒たちが自らペンを執った作品群です。その数は延べ100点以上に及び、デジタルな世界に血の通った温もりを与えました。

  • 豊かなキャラクターたち: 37体もの個性豊かな「敵キャラ」や、プレイヤーを導く「ぼうさいちゃん」「ぼうさいまる」といったキャラクター、さらにはお守りやヘルメットといったアイテム、ロゴに至るまで、自分たちの表現がゲームを彩りました。
  • ラストボスへの挑戦: ゲームのクライマックスには「魔王(ラストボス)」との決戦が用意されており、これを倒して祈りを捧げることでエンディングを迎える構成になっています。

「自分が描いた絵が、友達の端末の中で動いている」。この体験は、生徒たちの自己肯定感を最大化させました。防災というテーマが「借り物の教材」から「自分たちが創り上げた世界」へと昇華したことで、学習に対する帰属意識は揺るぎないものとなったのです。

生徒たちが描いたキャラクター
生徒たちが描いた多彩なキャラクターたち

5. 学習効果と行動変容:楽しさが生んだ「自分を守る力」

「楽しさ」を入り口にした設計は、期待を遥かに超える「行動変容」を導き出しました。

  • 個別最適化された20問の挑戦:
    • 初級: 4問
    • 中級: 5問
    • 上級: 5問
    • かしの木オリジナル: 6問

    この4段階の難易度設定が、多様な特性を持つ生徒一人ひとりにジャストフィットしました。

  • コミュニケーション・カタリストとしての機能: 普段は自己表現が苦手な生徒が、答えを求めて自ら先生や友達に相談する姿が見られました。ゲームという共通言語が、他者との関わりを促す「コミュニケーションの触媒」となったのです。さらに「自らヘルメットを探して正しく被る」といった、災害時に生死を分ける具体的な判断行動も、遊びの文脈の中で自然に習得されました。

そしてプロジェクトのクライマックス。全ミッションをクリアし魔王を倒した生徒には、校長先生から直接「かしのき防災マスター」の証が授与されました。ICTを通じた学びが、リアルの学校組織における最高の承認へと結びついた瞬間、教育としての社会実装は完結したのです。

防災マスター認定証授与の様子
防災マスター認定証授与の様子

6. おわりに:フロンティア賞の先にある、インクルーシブな未来

「ぼうさい甲子園」フロンティア賞の受賞は、マッシュ&ルームが掲げる「ちょっとのITとICTで、ちょっとの笑顔とワクワクを」という哲学が、教育パラダイムを「訓練」から「探究」へとシフトさせる力を持っていることを証明しました。

かしのき特別支援学校での実践は、単一の成功事例ではありません。このモデルは高い汎用性を持ち、地域社会や他校へと波及するポテンシャルを秘めています。私たちが提示したのは、デジタルとアナログ、遊びと学びを融合させることで、誰一人取り残さない「インクルーシブな防災教育」の新たな地平です。

このワクワクの輪が、日本中の教育現場に広がり、すべての子供たちが「自分を守る力」を笑顔で手に入れられる未来を信じて。これからも私たちは、遊びを喜びに変える挑戦を続けていきます。本プロジェクトを支えてくださった皆様に深く感謝するとともに、今後の活動への変わらぬ応援を心よりお願い申し上げます。

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